「それでは最後のお別れでございます。」
最期、火葬場でご遺体が焼かれるときに押されるボタン。
地域によっては喪主が押すところもあるそうだけど(私の父方の祖父がなくなったとき、この形式だった)、あれで火がついてるわけじゃないらしい。
後ろに操作する人がいて、表でスイッチが押されると合図になって、点火されるそう。
考えてみればあんな特殊な大型の窯を操作するなんて素人にはとてもあぶないのに、
幼いころからあれは点火ボタンだと本気で思い込んでいた。
インターネットが普及して本当に良かったと思う。
葬式のことや火葬のこと、残った遺骨や引き取り手がいない人はどうするのかまで
調べることができるから。
死に関することに触れることがタブーだという人もいるけれど、
私たちはいつか必ず死ぬ。
最期の始末のことを知っておいてもいいんじゃないか、と私は祖母の葬式が終わって
帰宅してから調べまくっている。
特に参考になったのは下駄華緒さんという、元火葬場職員によるこの本。
どんな風にご遺体を焼いているか、彼らはどういう仕事をしているのか、
書いている。
魚焼きグリルが全自動のこのご時世に、デレキという棒を使って
遺体の姿勢を人の手で直しながら焼いているなんて思いもしなかった。
もちろん最新炉は少し違うのだろう。
それでも人がカメラで確認しながら焼いていることには変わりはないわけで、
それってすごい仕事だなあと思う。
私はもう何度も親戚の葬式にでているおかげで、遺体が焼けるのに1~2時間かかることはわかっているが、息子は15分で焼けると思っていたらしい。そんな馬鹿な、とおもうが、たしかに大型炉だし、火力を出そうと思えば出せるのだろう。その代わりあとかたもないだろうが。ちなみに父方の祖父のときは大柄な人だったので3時間近くかかった記憶がある。親戚一同皆ぐったりであった。
でもおかげで火葬場の裏側をすこしだけのぞけた。もちろん、立ち入ることはできないが、あれはとても貴重な体験だったように思う。子供たちは待つのに疲れて冒険が始まり、大人たちはそれどころではなかったから、あの時だけは他の子どもに混ざって私も駆けていった。重たそうな扉、油のにおいと独特なにおい。そしてなによりも熱気を感じた。
こんなに熱くちゃかわいそうだなと思ったし、もっといえば死んだらこんな高火力で焼くのかと恐ろしくなった。火葬場の燃料は重油だとわかった今は怖いことは何もない。
2000年以降は都市ガス・液化石油がメインらしい。どうりでにおわなくなったはずだ。
あの時の私に教えてあげたい。火葬場で焼けるのは一日でせいぜい3件なのだと。
ご遺体をしっかり焼くために、職員さんたちが毎日綺麗に掃除して、火力をあげているのだと。私たちはみんないつか死ぬ。死んでも、こんな風にきちんとしてくださる方がいるから私たちは安心して成仏できるのだと。それは本当にありがたいことなんだよ、と。
今日も誰かがなくなり、葬式があり、火葬場が稼働している。
最期の始末を陰ながら支えてくださっている方々のおかげで私たちはその辺で腐ったまま放置されることもない。
ならば勘違いくらい解いておいてもいいんじゃないか。
そう思ってこの記事を書いた次第だ。
これから葬式を迎える人、火葬場に向かう人はどうか安心してほしい。