天才にはなれないけれど

『一を聞いて十を知る』という言葉がある。意味は

ものごとの一端を聞いただけで全体を理解できる、ということ。非常に賢くて理解がはやいことのたとえ。by コトバンク

 

世の中には一を聞いて本当に一以上のことを読み取れる人が結構な数でいることに私は驚く。一を聞いて複数を知る(情報を読み取る)ことができるのはだいたい経験によるものが大きいと私は思うのだが、そういう人たちに「あなたがすごいのであって、私には同じことはできません」というと決まって「こんなのたいしたことないよ」「え?これくらいできて当然でしょう」と返ってくる。「ありがとうございます」でにこにこしてくれる人は体感的に200人に1人いるかどうかといったところだ。

 

もちろんその返答の多くは謙遜なのだが、ごくまれに遺伝子的にも、生まれ育った環境的にも傑出した神童・天才はいるもので、そういう人たちは本当に「一を聞いて十を知る」が平然とできる。そうして本気でほかの人間が同じことができないのかまったく理解できないのである。そうした人間にあたると凡人たる私はひどく傷つく。

いや、傷つく必要は全くないのだけれど「どうしてこんなことができないの?」「こういう態度でいるから会話の流れからしてこうだってわかるだろう?」と平然と要求されるからだ。しかも彼らの言うことはだいたい正しい。

 

ところで私の好きな人の言葉に「一を聞いて十を知るというのはその人がすでに十を知っているから一を聞いてわかるんだよ」というのがある。これを聞いた時私は「ははあ、たしかにそうだな」と思った。天才と呼ばれる人たちの多くは幼少期より大量のインプットとアウトプットをしていることがほとんどだ。かのモーツァルトも父親が宮廷音楽家であり、幼少期から教育を受けたという。しかもモーツァルトの父親は彼を引き連れあちこちで演奏させた。ベートーヴェンも祖父が優れた宮廷音楽家であったらしい。近代の天才たちをみても親が有名な政治家であるとか、仏僧であるとか、優秀な技術者でそういうのを近くでみて、聞いて、育った人たちが大半である。

子供のころから意図しないままにそういう学習をすれば自分が勉強してできるようになっただとは思わないだろう。

 

つまりだ、『一を聞いて十を知る』のは既に十を学習しているからなのだが、天才と呼ばれる人たちはそういうことを普段から無意識に繰り返しているのだろう。なので当然処理速度も速い。幼少期から意図しないままに無意識で行っていることなので「意図して学習しなくてもできる」ような状態になっていると推測できる。そうしてできるのが当然という価値観が無意識に形成され、それらが彼らのデフォルトの世界なのである。

そうしてできない人を見ると自分がそういう親の元で育った、よりよい環境の中で意図しないで学習できたことを意識していないので「努力が足りないんじゃない?」という発言すらする。

 

ならば悲観することも傷つくことはない。

一を聞いて十を知ることが実はすでに十を学習してました、なのなら事前に大量のインプットとアウトプットをすればいいのである。そうしてそのもっとも簡単なことは読書だ。理解できようができなかろうが大量の読書をし、自分の言葉で説明できるようにする、考えをあらわにするという訓練を積み重ねていけば一を聞いて3か4くらいは理解できるようになるのではないか?と私は思う。

 

もちろん遺伝子的なものもあると思う。私は凡人どころか簡単な引き算で小学生の時に詰んだ人間だが(ちなみにそれは教育者の説明が下手だっただけで、のちに解決した)、妹は幼稚園で掛け算割り算ができ、当然どの教科も毎回百点で、ぜひ私立にと推薦され、高校も奨学金付きの特等生であり、大学も難関を現役で塾もいかずに合格した。ちなみに私の両親は凡人である。けれど大人になって、妹も結婚して子供を産み、それらができたのは私を見て、遊びながら教科書などを一緒にみていたからだと話してくれた。だから私はまったく神童でも天才でもない、と。そうして上には上がいて、自分の部下をもつようになると自分はたまたま恵まれた環境にいただけだと理解したらしい。それでも妹は私より優れた遺伝子・素養をもっているのだと思う。はじめてみたものを理解するときの解像度がとてつもなく高い。

 

私はたぶんこれからも一を聞いて十を知る天才にはなれないだろう。でもそれでいい。

私は好きなことを追及するし、結果として一以上のことを知ることができればそれで上々である。天才でも秀才でもなく「なんかしらんけど、好きなこと追及していったらおもしろいひとになりました」になりたい。オタク最高である。

 

Photo by すしぱく

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