どうも精神的に参ってしまっていたのでガス抜きに街に出ることにした。
いつもなら電車で移動するのだが、以前から気になっていたバスを利用しちょっとした冒険である。行き先を特に決めていたわけではないが、バスの終点はそれなりの鉄道駅であるし、何かあっても自宅まで帰るルートはあるとわかっていたから問題なしである。
駅に着いたらまあ人が多くて辟易した。
それで人混みを避けるようにフラフラと歩いていたら、古本屋を発見。
しかもちゃんと営業しているようだ。
吸い込まれるように店内へ。(店内入る前に外の棚で一冊手にとっていたのはあるあるである)おお、素晴らしい。床も棚も本でぎっしりである。比較的新しいのもあれば、今は出版社自体が潰れてしまっている本もある。全体を上から下まで物色し、購入したのは四冊。『暗号解読』(上)は値段を店主に聞いたら「それ、上巻しかないから100円でいいよ。」と。なんて太っ腹であろうか。四冊買って650円であった。
本を抱えて古本屋の隣のイタリアンへ。
こじんまりした感じで古本屋に入る前にメニューをチェックしていたのだ。
安いランチもあるがそれなりのランチもあるようであった。
店に入ったら私一人。
「いらっしゃい、一人?」
ちょっと無愛想な感じの店主が声をかけてきた。
「はい、いいですか?」
「もちろんいいよ。ここ座って」
カウンターの端席をしめされる。
これ一番いい席じゃないか??
前菜つきのコースを注文して、本を捲る。
静かな空間には音楽もラジオもかかっていない。
店主がかちゃかちゃと料理を用意する音だけが聞こえている。
いいぞいいぞ。大当たりの店の予感がした。
そのまま気にせず本を読んでいたら店主が水を出してくれた。
ちょっと無愛想な感じがするだけでちゃんとこちらも気にかけてくれているのがわかる。
前菜が運ばれてきた。
店主が料理の説明をしてくれた。ん?くすくす?くすくすってなんぞや。
初めて食べる。クセのないさっぱりした味である。
調べてみたらモロッコ発祥のショートパスタらしい。見た目が魚卵ぽいからよくわからずに食べていた。
スープは冷たいコーンスープ。一番驚いたのは蓮根の揚げ物である。
薄く切ったレンコンをあげてあるのだが、天ぷらではない。
見た目は薄いがんもどきである。
口に入れた瞬間かりっ、といい音が鳴った。
お、おいしい・・・!どうやって作ったらこんなにおいしいものが作れるというのか!
うーむ、この店下調べなしに入ったけど超大当たりなのではないか???
私は以前個人経営のイタリアンレストランで働いていたのでシェフから色々うんちくを聞かされていたのだが、「前菜がうまい店はうまい。前菜すらダメなような店はだめ。」とシェフはよく言っていた。あと「腕がいいか悪いかは切り口でわかる」とも。
その後出てきたサラダもハーブ増しましでよく冷えているけど、乾燥もしておらず絶品であった。しかも出すタイミングが絶妙である。(私一人しかいなかったせいもあるかもしれないが)
ついにメインのパスタが運ばれてくる。
エビと生のりのペペロンチーノを頼んだのだが、エビが大ぶりでぷりぷりである。
しかもペペロンチーノの塩味と生のりが絶妙に調和し、味は濃いめなのだがしつこくない。ぐああ、恐れ入った。おいしい、おいしすぎる。食べて幸せとはこのことを言うのであろう。
お会計して「ありがとう。おいしかったです」と伝えると「こちらこそありがとね」と店主は初めて笑顔を見せた。なんだ、やっぱりいい人だ。
帰宅して店のことを調べてみたらグーグル評価で4.4。低評価の口コミは店主が無愛想に見えるという事だけで一人客や夫婦客に無茶苦茶愛されている店だとわかった。
バイト一人雇わず昔から店主一人で切り盛りしているらしい。
デザートも絶品とのことである。
今度行く時は一番高いコースで注文したいと思う。
あいにく昼過ぎから熱が出てきた感じがしたので早々に買い物だけして帰宅したのだが、街散歩(冒険)はなかなか楽しかった。
知らない街を歩くと思いがけない発見があってとても面白い。